十束英志
流山中央病院 総合診療科にて細々とやっていた「新型コロナ感染後遺症外来」を当 大袋医院でも継続しております。この夏の第7波以降、急速に患者が増加しており、様々な病態の把握や治療に難渋する症例が多数おります。県のホームページに登録された埼玉県東部地区の新型コロナ後遺症外来は春日部市、越谷市、草加市では13ヶ所となっており、このうち入院施設があるのが順天堂大学附属越谷病院だけと、いささか心細い感覚を持ちます(表1)。今回「第1報」として患者背景、症状、検査所見を中心にデータをまとめましたのでご紹介いたします。治療およびそれに伴う成績の詳細は次回以降でご報告します。
令和4年5月1日から10月31日までの6ヶ月間に健身会大袋医院に受診した初診患者1,269例のうち新型コロナ感染後遺症の疑いで受診された患者は93例(7.3%)でありました。男女比 42:51で、年齢は38.2±14.4歳、居住地は当院がある越谷市(61例)を中心に、草加市(11例)、春日部市(10例)など、半径10km圏内から来院いただきました(図1)。これらの症例に対して年齢分布や基礎疾患、ワクチン接種などの背景因子、発症のタイミングと症状、検査成績を調査いたしました。
新型コロナ感染の罹患年齢の分布は東京都の本年9月までのデータを転用いたしました。年代別の感染数は、男女ともに多い方から10代以下、20代、30代、40代、50代、60代と若い順となっておりました(図2 上段)。これに対して、当院に受診した後遺症の年齢分布は40代が最も多く、次が20代で、30代、50代の順でありました(図2 下段)。小児科へ受診する症例も考えられますので一概には言えませんが、10代以下は後遺症を起こしにくい傾向が窺われました。
当院で経験した新型コロナ感染後遺症は若い年齢で発症する傾向がありますので、基礎疾患を有する症例はそれほどなく、高血圧(3.9%)、糖尿病(1.3%)、高脂血症(2.6%)、気管支喘息(5.2%)と有意な傾向は見られませんでした。また、後遺症の症状として咳、息切れ、呼吸困難などの呼吸器症状を訴える患者について喫煙習慣と喘息の既往を調査しましたが、喫煙(10.9%)、喘息は(6.3%)はいずれも呼吸器系の後遺症に寄与していないと考えられました(図3)。
一般的に新型コロナのワクチンを接種していると罹患しても軽症であると言われておりますので、後遺症もワクチン接種で予防でき、逆にワクチン接種回数が少ないと後遺症のリスクは高まると思われました。ところが、当院のデータからは関連性は見られませんでした。すなわち、後遺症の症例のワクチン接種は3回が最も多く、0-2回接種の割合は全国民のそれとほぼ同等でありました(図4)。後遺症の症例に4回接種の患者が少ないのは新型コロナ感染とそれに続く後遺症でワクチン接種が先送りになっているためと考えられました。
当院の後遺症の症例がいつ新型コロナに感染したかを記録しますと、この夏の第七波の時期に一致して多く見られました。感染者数が増加すれば後遺症を発症する症例も増えることが確認されました(図5)。
後遺症が発現した時期を調べると、最も多いのは新型コロナ感染と診断されたその日(47.3%)であり、次に多いのは感染後6-10日目(20.4%)でありました(図6)。感染当初よりある症状が改善することなしに継続している患者が最も多く、隔離が解除され日常生活を取り戻したところで症状が発現した症例が次に多くなっております。日常生活に戻って一月以上経過してから体調不良を自覚する症例も6.5%で見られました。
一人の患者が複数の症状を訴えます後遺症の詳細を示します(表2)。臓器別では呼吸器(73.1%)、全身(71.0%)、神経(63.4%)、精神(57.0%)の順で、個々の症状で見ますと、倦怠感/易疲労感(71.0%)、咳/呼吸苦/息切れ(54.8%)、頭痛/めまい(51.6%)が半数以上の症例で認められました。これに精神科的症状が続き、睡眠障害(37.6%)、意欲低下/抑うつ症状(37.6%)、頭に霧がかかってもやもやした感じがするBrain fog(30.1%)が3割以上の患者で認められました。動悸、立ちくらみなどの循環器症状は2割前後で、脱毛は14.0%、消化器症状は少数でありました。学生または社会人で学校、職場を一時的あるいは長期に休まなければならない就学/就労困難は47.2%に及びました。
後遺症の全例で採血、尿、心電図、胸部レントゲン検査を行い、症状に応じて頭部または胸部のCTを追加しました。概ね異常なしの症例がほとんどでありましたが、後遺症に伴うと思われる肝機能障害が10例(10.8%)、心筋酵素異常および心不全(NT-Pro BNP高直)が2例(2.2%)に認められ、心電図異常は6例(6.5%)、頭部および胸部CT異常が各々1例(1.1%)、4例(4.3%)に認められました(表3)。このうち、心筋障害および心不全が見られた2例は循環器内科へ紹介し入院加療となりました。
当院で経験した新型コロナ感染後遺症の患者背景、症状、検査所見をご報告いたしました。後遺症の発現と、基礎疾患や新型コロナワクチン接種の有無/回数との相関は見られませんでした。また、新型コロナ感染症は、入院するほどの重症患者でない限りは、発熱と呼吸器症状があれば抗原またはPCR検査にて診断され、そのまま施設あるいは自宅での隔離が基本となっており、初期の発症の段階における採血や画像診断などの検査データはほとんどありません。そのため新型コロナ感染の病態把握、他疾患除外はなされていません。これらのことは、後遺症の発現を予見することが困難であることを意味しております。 後遺症の発現は全身、精神、神経系、呼吸器、循環器、皮膚、消化器など多臓器に及び、症状は多岐に渡っております。例えば、倦怠感と抑うつ症状、頭痛、咳、脱毛がある患者に対して、どの臨床科で対応するのが良いのか、あるいは総合病院の複数科で集学的な対応が良いのか、それが実際に可能なのか、診療の最初の段階から難しい判断を迫られます。 今現在、感染は第八波に突入しようとしております。年明けにはさらに後遺症患者が増加すると思われ、担当する医師間の横の繋がり、情報の共有の必要性を感じると同時に、新型コロナ感染に罹患した方は後遺症の可能性を考慮した生活と、症状発現に際しては早めの医療機関受診をお勧めする次第です。