高尿酸血症を改善/痛風を予防する(食)生活

十束英志

図1

 越谷市で外来診療をしていると、この界隈は高尿酸血症の人が実に多いものだと感じます。痛風を発症する人も少なくありません。
 血液中の尿酸(UA, uric acid)が高くなると、排泄しきれなくなり体内に蓄積します。原因は不明ですが、足の関節、とりわけ親指の付け根やくるぶしに尿酸が沈着することが多く、結晶(尿酸塩、図1)となって激しい関節炎を伴う、それが「痛風」であり、関節痛は激烈で「痛風発作」と呼ばれます(図2)。

図2

放置すれば体の各所に痛風結節が発生して、腎盂尿管に尿酸結石が発生して(痛風腎)腎臓機能障害をも引き起こします。  ここでは、高尿酸血症の是正について、食生活を中心に、高尿酸血症治療薬に頼らない方法論を考えて参ります。薬物療法は他に譲ります。

尿酸とは?

尿酸(C5H4N4O3)は分子量168の有機化合物で、動物の遺伝子であるデオキシリボ核酸(DNA)やエネルギー源の役割を担うアデノシン三リン酸(ATP)を構成するプリン体と言う物質が分解された最終代謝産物(=老廃物)であります(図3)。
遺伝子やエネルギー物質が代謝された分解産物ですので、そうした食べ物を摂取しても、あるいは体細胞が壊れても発生しますので、尿酸は人間の体で常に作られ排泄されています。

高尿酸血症の原因

1.人間には失われた尿酸酸化酵素

ほとんどの動物は尿酸を分解して体内に蓄積することはありません。ところが、人間とヒト上科霊長類(チンパンジー、ゴリラ など)には尿酸を分解する酵素(尿酸オキシダーゼ)が無く、尿酸はプリン体の最終産物となっております。ですから、高尿酸血症および痛風は、人間を含むこれらの動物にしかない病態であります。

2.遺伝的素因・性差

尿酸排泄に関わる遺伝子が解明されており、高尿酸血症に遺伝的素因は言われています。また、尿酸排泄に女性ホルモンが関与するため、同ホルモンを多く有する女性は男性よりも尿酸値が低く、痛風の罹患率は男女比98.5:1.5と圧倒的に男性が多いとされます。

3.食生活

尿酸値に最も影響するのが食生活です。プリン体含有量の多い食品を摂取すればその代謝産物である尿酸が体内に蓄積します。概ね、肉食も海産物も血中尿酸値を増加させ、野菜、乳製品は尿酸を減らすと考えられています。表1に食品ごとのプリン体含有量をまとめております。

表1-2

4.飲酒

飲酒はアルコール飲料の種類にかかわらず血清尿酸値を増加します。アルコールの代謝でATPが分解されてその最終代謝産物である尿酸が産生されます。また、アルコールの代謝は血中の乳酸を増加させ腎での尿酸の排泄を抑制します。

5.脱水

尿酸は尿排泄ですので、水分を摂取することで尿量が増加して尿酸排泄は促されますが、逆に下痢や発汗、水分制限による脱水は利尿を制限して尿酸を保持しますので尿酸値を上げます。

6.運動

スポーツは体に良い印象がありますが激しい運動や肉体労働は血中尿酸値を上げる原因となります。過度の運動により筋肉の新陳代謝が上がり、簡単に言えば、筋肉の細胞が壊される結果、自分の体細胞中のプリン体が遊離するからです。また運動による発汗は脱水を引き起こし、これは血中尿酸値の上昇に繋がります。

7.肥満

肥満と高尿酸血症は密接な関係にあります。脂肪組織の増加はインスリン感受性を低下させ、これは尿酸の排泄を悪化します。また、内臓脂肪に含まれる中性脂肪の増加は、遊離脂肪酸の分泌から肝でのプリン体の代謝を促します。

8.薬剤

薬剤の中には尿酸値を上昇させる副作用を有するものがあります。サイアザイド系降圧利尿薬(フルイトラン など)、ループ利尿薬(ラシックス、フロセミド など)、喘息治療薬のテオフィリン(テオドール など)、結核治療薬のピラジナマイド(ピラジナミド など)、アスピリン(小児用バファリン など)であります。高血圧の治療で利尿剤が処方されていて、高尿酸血症が認められたので、今度はそれに対する治療薬が処方される、医療の歪みがそこに見え隠れします。

高尿酸血症対策に有用な食生活

血中尿酸値が上昇する原因を論じて参りましたので、その原因を除去することが高尿酸血症の対策となることは明白であります。ビールや肉食など、プリン体含有量の多い食品の摂取を控え、カロリー制限から肥満を改善し、激しい運動による体細胞の分解を理解し、十分な水分補給と薬剤の副作用に意識をもつことは肝要です。

1.プリン体摂取の抑制

図4

「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」に『1日400 mgを目安にしたプリン体の摂取制限』が示されています。改めて表1を参考にしていただければ幸いです。  プリン体と言うとビールがその代表格とされがちですが、実際には、350 mlではどんなに多くても50 mg以下であります。宴会などで「生チュー」を何杯も飲んで3ℓにも及べば一日摂取量限界の400 mgを超えて来るので要注意です。  プリン体含有量が極めて多い食品として要注意No. 1は干し椎茸で2番手はちりめんじゃこでしょう(図4)。

干し椎茸は煮物にされる場合が多いですが、ヘルシーとの認識からついつい食べてしまいますし、ちりめんじゃこは不足がちなカルシウム補給には好ましい食材です。鳥レバーやあん肝、いわしの干物を習慣的に食べる人は少ないでしょうが、ビールのつまみになるケースはあるでしょう。これらも要注意です。  プリン体含有量が多い食材には、かつお、鯵の干物があります。「フィッシュオイル」などと、健康に良いとされる魚介類ですが、プリン体摂取と言う観点からは要注意です(図5)。

図6

これに対してプリン体含有量が極めて多い食品でも干しエビ、鰹節を100 gも食べることはありません。焼きそばやお好み焼きなどの隠し味に干しエビ、豆腐に乗せて食べる鰹節などはプリン体を意識するほどではないと思います。プリン体の含有量が少ない食材に、野菜、穀物、卵、乳製品が散見されますが、その中で目を引くのは、豚バラ、牛タン、ソーセージ、ベーコンなどの肉類と、魚介類でもホタテ、うなぎ、かまぼこ、もづく、いくらであります(図6、7)。

図7

不思議なことに同じ魚卵でも、明太子といくらでは40倍くらい明太子の方がプリン体含有量が多いようです。

2.尿をアルカリ性にする食生活

尿酸はアルカリ性の液体に溶けやすいことから、尿をアルカリに傾かせることは尿酸排泄に繋がり、これは食事でコントロールが可能です。

 

【尿を酸性にする食品=尿酸蓄積】

  畜肉/卵/青魚/貝類/甲殻類/白米

【尿をアルカリ性にする食品=尿酸排泄】

  海藻/野菜/豆類/果物/アルカリイオン水

3.利尿作用のある緑茶・コーヒー

緑茶やコーヒーには利尿作用がありますので、十分な水分補給と同時にこれらの嗜好品を摂取することは尿酸排泄に有効です。

4.乳製品で尿酸の吸収阻害

最近、「プリン体と戦う乳酸菌」と言うキャッチフレーズが目につきます。「明治プロビオヨーグルトPA-3」がそれですが、実際にはヨーグルトの乳酸菌は胃酸で分解されてしまうため、その種類についてはあまり意味をなさないとされております。

 しかしながら、乳製品全般に、腸内細菌を整える効果が認められており、乳酸菌が分解された物質が材料となって、腸内で新たな善玉腸内細菌が作られと言われております。ヨーグルト、牛乳、チーズなどの乳製品の摂取は腸内細菌叢の転換から尿酸吸収を阻害すると考えられます。

5.その他

尿酸値を下げる物質として、ビタミンC、梅干しに多く含まれるクエン酸、アセナリンなどが有効とされています。

まとめ

高尿酸血症を改善、痛風を予防する食生活をご紹介しました。参考になれば幸いです。

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