胆嚢結石症のマネージメント

十束英志

食生活の欧米化、高脂血症、肥満に密接な関わりがあり、極めて日常的な病気である胆嚢結石症を取り上げます。有病率は日本人の約4%(25人に1人)とされ、年齢とともに増加して成人の10人に1.5人、70歳以上では20%に及ぶとされています。

肝〜胆道(胆嚢)〜膵〜十二指腸の解剖

肝〜胆道(胆嚢)〜膵〜十二指腸の解剖

肝臓と十二指腸は胆管と言う管で繋がっており(図1)、肝臓で作られた胆汁を腸管に流す管です。胆嚢はその胆管の途中にある袋状の臓器で、胆汁を濃縮して、食事摂取の際に収縮、効率よく胆汁を十二指腸に押し出す役割をしています。

様々な胆嚢結石とその成因

様々な胆嚢結石とその成因

この胆嚢の中に石ができたのを「胆嚢結石症」と言います。コレステロールの塊であったり、胆汁色素の沈澱や、カルシウムの沈着、それらの混合/混成であったり、成因は様々であり、その結果、いろんな形態の結石があります(図2)。

胆嚢結石が発生する原因論として、年齢、体型、性別などに基づき昔から「3つのF」と言われて来ました。
それは、、、

【胆嚢結石症 3つのF】

Fifty: 50歳、Fatty: 脂肪、Female: 女性

50歳以上の皮下脂肪が多いあるいは高脂血症の女性に多いと言うことです。実際には若い人で痩せた男性にも発生することはあります。
よく「結石」と言うと腎臓や尿管の尿路系にできる結石と混同される方がいらっしゃいますが、石ができる部位も原因も全く違う病態であります。また、後述します胆嚢から流れ出た「落下結石」はただ胆嚢からの移動でありますが、胆管内で発生した原発性の胆管結石(肝内結石)は、その発生の機序が異なり、治療法に一工夫が必要な病態であります。これについては別の機会にご説明いたします。

胆嚢結石の診断

胆嚢結石の診断

図3に胆嚢結石の画像診断を示します。左から超音波(エコー)、(DIC)CT、MRCPです。簡便な超音波検査は正診率は高いですが、胆管結石や胆管と膵管の合流形態を見るのには不向きであり、CTやMRCPを追加して評価するのが通常です。

胆嚢結石症の危険性

胆嚢結石症の半数以上は症状がないまま経過しますが、しばしば石が悪さをして突然の発症、激しい痛みを伴います。
以下の3つです。

1)急性胆嚢炎
急性胆嚢炎

胆嚢の出口付近、頚部または胆嚢管に結石がはまり込み(嵌頓)、胆嚢内に胆汁が溜まって腫れ上がった状態です(図4)。胆嚢も胆管も腸管と交通があるため大腸菌などの細菌がいて、鬱滞した胆汁はすぐにも膿汁に変わります。カメラでのアプローチは不可能で、皮膚と肝臓を通して管を胆嚢内に入れる処置(経皮経肝胆嚢ドレナージ)か、あるいは、緊急手術で胆嚢摘出術が行われます。

2)急性胆管炎
急性胆管炎

胆嚢結石が胆管に移動(落下)して胆管が閉塞し、胆汁が流れず血液中に移行する病態です(図5)。肝障害と黄疸(身体が黄色くなること)を伴い、急性化膿性胆管炎となれば極めて危険です。緊急処置として、皮膚と肝臓を通して胆管に管を入れる方法と胃カメラを十二指腸に進めて逆行性に胆管に管を入れる方法があります。

3)急性膵炎

落下した結石が膵胆管合流部にはまり込み、膵液の膵内への逆流を来たした病態です。重症急性膵炎の死亡率は30%とされます。保存的治療です。

【胆嚢結石症の急性期症状】

1)胆嚢出口への結石の嵌頓 → 急性胆嚢炎
2)落下結石 → 急性胆管炎 → 閉塞性黄疸
3)落下結 → 膵胆管合流部へ移動 → 急性膵炎

胆嚢結石症の治療

胆嚢結石症の治療として、以前は体外衝撃波による破砕術や胆石溶解剤の投与が試みられていましたが、何れも合併症の問題や有効性が不十分なことから施行されなくなりました。現在は、図6、7に示します腹腔鏡による胆嚢摘出術が主流であります。これですと、お腹を切ることなく3〜4個の穴を開けるだけで腹腔内をテレビ画面に映し出し、腹腔内操作だけで胆嚢を摘出することができます。傷が痛くないだけではなく、術後すぐから飲食が開始できて、早期に退院が可能です。

胆嚢結石症の治療1
胆嚢結石症の治療2

胆嚢結石症と胆嚢癌の関連

内在する胆嚢結石による長期の慢性刺激が胆嚢粘膜に癌化を引き起こす可能性が指摘されてはいますが、胆嚢結石症を有する症例が将来、癌にかかるか否か、という検討はなされていません。しかし、両者の関連を示唆するいくつかの証拠があります。

【胆嚢結石症と胆嚢癌の関連を示唆する証拠】

  • ほとんどの胆嚢癌症例で胆嚢結石がある
  • 胆嚢結石症で摘出した胆嚢の3-10%に癌が合併
    (胆嚢癌の有病率は人口10万人に2人)
胆嚢結石症と胆嚢癌の関連を示唆する証拠

心に残る患者を紹介いたします。弘前大学第二外科で診療をしていた時のこと、46歳女性が心窩部痛を主訴に外来受診しました。
思いつめた表情の細身の女性は、大学病院としては珍しく紹介状を持たずに来院され、聞けば5年前より胆嚢結石を指摘されていたとのことでした。胆石発作かあるいは急性胆嚢炎かと思い、超音波で見てみると確かに胆石はありますが、それを取り巻く不気味な腫瘍の拡がりが認められました。
5年も前から胆石を持っていながら病院にかかっていなかったその女性に、虫の知らせでもあったのか、突然、思い立って大学病院の門を叩いた、その悪い予感は的中し、正常値が2-30程度の腫瘍マーカー(CA19-9)が1万を超えており、腹部CTで胆嚢結石の周囲から、肝臓に浸潤した巨大な腫瘍が認められました(図8左)。進行胆嚢癌は疑う余地がなく、困ったことに注腸造影に示す通り腫瘍に巻き込まれた大腸が狭窄を呈した腸閉塞の状態で(図8右)、胆道ドレナージで黄疸を回避しつつ、人工肛門を作るしか手はありませんでした。


悪性度が高い胆嚢癌に対して有効な抗癌剤、放射線治療はなく(それは現代でも同じです)、患者はなすすべなく受診から3ヶ月で亡くなられました。残された子供は中学生の男の子と女子高校生の二人、目をつぶれば病室に響く娘さんの泣き声が今でも想い出されます。なぜ5年前に胆嚢結石症の治療(胆嚢摘出術)をしなかったのか?、やっておれば亡くなることはなかった!、という憤りが今なおこみ上げる次第です。

胆嚢結石症に対するあるべきマネージメント

以上、胆嚢結石症についてご説明申し上げました。急性胆嚢炎、胆管炎、膵炎、そして悪性腫瘍の発生と、危険性を列挙いたしました。ただ、急性の症状が起こる可能性は50%以下であり、同様に胆嚢癌が必ず発生するものではありません。手術にはある一定のリスクと費用、時間を要しますので、胆嚢結石症と診断されたからと言って必ず治療しなければならないと言うものではありません。ここで胆嚢結石症の患者に対するあるべきマネージメントを申し上げます。

【胆嚢結石症に対するマネージメント】

  • 症状がなくとも危険性について説明
  • 症状ある患者には積極的な治療を勧める
  • 悪性腫瘍を考慮した定期的な画像評価

そして非常によく見られる医師からの指導として以下の間違ったマネージメントがあります。

【間違ったマネージメント】

✖️ 結石の大きさが小さいから大丈夫!
✖️ 症状なければ定期検査不要、放置

まとめ

胆嚢結石症は突然、症状が発現し、胆嚢癌との関連もあります。すでに胆嚢結石をお持ちの方は是非ともご相談ください。

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