総合診療科でしばしば遭遇するのが「中高年のうつ病」であります。以前から、ある一定の頻度で経験して参りましたが、自ら命を絶つ芸能人が散見される様に、現代では増加の一途を辿っており、「コロナうつ」との言葉が示す通り、新型コロナウイルス感染症も、この病態の増加の原因を担っていると思われます。
孔子が言うところ、40歳にして「不惑(ふわく):心に迷いがなくなり」、50歳代は、「知命(ちめい):五十にして天命を知る」、自分の人生に於いて最も重要なものは何かを知る、自分はどのような役割をもってこの世に生を受けたのかを知る年代、そして60歳代は「耳順(じじゅん):六十にして耳順う(したがう)」、何を聞いても素直に受け入れることができる年代とされております。そんな、精神的な安定期に入る年代に、実はうつ病と言うかたちで心が不安定になる人が少なくないのが現実であります。
ここでは、中高年のうつ病に焦点を絞り、その原因論と予防法を考えてみます。なお、しっかりと診断がついた「うつ病」のみならず、「抑うつ状態」、「うつの予感」のような広義の精神状態を対象とし、精神医学的な観点からのより詳細なメカニズムや診断基準、薬物その他による治療法については他所に譲ります。